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日々の萌えと燃えを吐き出す文字どおり世迷言ブログ
 

 

 
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当日思い付いたという七夕小ネタをしれっと投下してみます。
あんまり傷医者じゃないです。ごめんなさい。
 

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「そして、せっかく結ばれたふたりは、お父様のお怒りに触れてしまい、一年に一度だけしか会えなくなってしまったんでス」
身振り手振りを交えた少女の力説を、初老の男は笑みを湛えて耳を傾けていた。
「…なるほど、年に一度の会瀬が今日この日という訳なんだね。そして、その日を故郷で祭っていると」
その言葉に少女は大きく頷いた。
「短冊…こういう小さな紙なんですガ」そういいながら、両の手の親指と人差し指を広げて長方形の大きさを示す。
「そこにお願い事を書いて、笹の葉につるして飾るんでス」
「ロマンチックなお祭りなんだね」
男の賛同の意が嬉しかったようで、少女は「そうなんでス」とさらに目を輝かせる。
「自分たちは年に一度しか会えないのに、その幸せを私達に分けてくれる、本当に素敵な方たちなんだと思うんでス…だから、いつもこの日をお祝いできるのを楽しみにしていたんですガ」
一変して寂しげな表情を浮かべたのは、この祭りに必要不可決な笹が、この異郷の地には生息していないからだった。
それでも、少女は話だけでも聞いてもらえてよかったと小さく笑う。
その姿を目の当たりにした男は、顎に手を沿えしばらく何事かを思案していた。

日もすっかり暮れたころ、キッチンから流れてくる何ともいえぬよい香りにつられて、ひとりまたひとりと食堂に集まってくる。
その一角に立てかけられた背丈の高い草に、怪訝そうに首をかしげる者もいた。
それは1メートルを有に超えており、しなやかな茎と人の手のように分かれた葉が特徴的だった。
「いったい誰がこんなところに、草なんて…しかもこれは」髭の男が言いかけたところに、キッチンから姿を現した初老の男が、すかさず自分が持ってきたのだと答えた。
そんなやり取りのさなか、今度は少女がやってきた。立ちかけられた草にすぐさま気づくと、驚いた様子で立ち止まる。
「さっき話していた装飾用の木なんだけど、これで代用できないかな?」
少女に男が件の草を差し出す。それは彼女が想起していたしなやかな、あの若木とは似て非なるものだった。
それでも、少女は喜色満面でそれを受け取る。
渡し終えた男はいったん奥に姿を消すと、紙片らしきものを手にして再び現れた。
「短冊の方は、こんな感じでどうだろうか」
それは、包装紙や紙袋を小さく切って上部に紐を通したものだった。
5色は用意できなかったけれど…と、申し訳なさそうに言い添えるのを少女は大きく首を振って、それから受け取ったものを大切そうに胸に抱えると、ありがとうございまスと深く頭を下げた。
「…で、いい加減何がなんだか説明してもらえないか」
初老の男と少女のやり取りを眺めていた髭の男が口を挟み、他の者もそれに同調する。
「実はね…」
少女が飾り付けにいそしむ間、その場にいた者たちは男の穏やかな語りに耳を傾けていた。

「ま、鰯の頭も信心からって言うしな」
話を聞き終えた髭の男がぽつりと呟いて、ドレッドの男に脇を小突かれている。「生臭そうな例えだな」と、隣の眼鏡の男が混ぜ返した。
そんな仲間達の様子を初老の男が目を細めて眺めている。
「さぁ、皆さんもここにご自分のお願い事を書いてくださイ」
飾り付けを終えた少女が、皆の集まるテーブルに寄ってきて、先ほどの急ごしらえの短冊を配り歩いた。
「良いのかい?」と当惑気味の初老の男に、少女はにっこりと笑って答えた。
「幸せは皆さんで分かち合うからいいんでス。きっと、空の上のお二人もそれを望んでいるはずですかラ」
それから、しばらくは大人たちが紙片を前に頭を捻る事態が発生する。
いち早く書き終えたドレッドの男が、他の者の手元を覗いて回り、初老の男の前で脚を止めると、大きくため息を吐いた。
「あのさ、ドクター。こんな時くらい自分のために願っても罰当たらないんじゃないか」
あいつを見習ってさ、と言いながら髭の男に向かって顎をしゃくってみせる。
「願い事なんだから、何書こうが自由だろう!」
そう言い返す男の短冊には、「誰もがひれ伏すような超偉大な人物になって云々」といったサクセスストーリーが紙面一杯に綴られていた。
「まぁ、叶うかどうかは別問題だしな」と相槌を打ったのは眼鏡の男だ。その短冊にはきっぱり一言「元の体に戻る」と書かれている。
にぎやかな食堂の中、初老の男は改めて自らの筆跡を追った。
そして、皆の幸せを願う文面の横に、もう一言書き足した。腰の調子が良くなりますように、と。
「あんた医者だろ。自分で何とかしろよ!」
「いや、むしろそこは傷の旦那に頼むべきだろう」
「だよな。俺、それとなく言ってやろうか?」
好き勝手な言い分が飛び交う中、当の本人はひたすら当惑している。
その、なにやら含みのあるやり取りに置いてゆかれた少女が首をかしげた。
「どうして、腰痛にスカーさンが関係してくるんですカ?」
無邪気な少女のやたら核心をついた疑問が提示された、まさにその瞬間。今まで不在だった話題の主が絶妙のタイミングでその場に現れたのだった。
「…なんの話だ?」
どうやら、自らが話題になっていることはかろうじて認識できたらしい。
周囲が申し訳なるくらい取り乱した初老の男や、それをにやにやと眺める合成獣のふたり、その中でいち早く動いた髭の男が何事か言葉を発しようとした少女の口を押さえることに成功する。
「いや、別に旦那には関係のない話でして…って、痛ったーーっ!」
何とか取り繕いおおせたと思われた瞬間、その男が悲鳴を上げて飛び上がった。少女の相棒であるパンダが、彼女の危機を救うべく男の手に噛み付いたからである。
ようやく解放された少女が、口を開く。
「スカーさンも、一緒に七夕しませんカ?」
未だ状況を判じかねている向こう傷の男に、少女は短冊を差し出した。
「ここにお願い事を書いて、飾るンでス」
「……」
受け取ることもせず、無言で紙片を見つめる大柄の男の前で、少女は所在無さ気に立ち尽くしたままだ。
「あの…どうされたんですカ?」
「己れには願う資格など…」
視線をそらし、拳を握る男に、ようやく人心地ついたらしい初老の男が歩み寄った。
「願うことに許可なんて必要ないんだ。祈りでも希望でもなんでも好きに思い描けばいい。それに、こういうのは皆で分かちあうとことが大切だから…そうだったね?」
振り返ると、その場にいた皆が大きく頷いた。
意を決した様子で、男は少女の差し出す紙片に手を伸ばした。


次の朝、彼ら全ての願いを乗せた笹の代用品は、遠い空に向かうべく灰となって遥か上空へと舞い上がっていった。
少女曰く、皆の願いはこのまま上って行って天に届くらしい。傍らで飾り付けられた草もろともに炎を上げる短冊を見つめながら、初老の男はそうであれば良いと強く願った。




間に合わなくても、しれっと投下しておくのが当ブログの仕様でございます。
行事関係は、学園のほうが導入しやすかろうと思うのですが、久しぶりに傷一行でわやわやっとさせてみたかったので、あえてこっちの方で。改めて、どこまでもファミリーライクな彼らが大好きだと思いました。



以下、余談的な

「あんたさ、さっきはあの子が居たから言いそびれたけど」そう前置きした髭の男が、初老の男を捕まえて言い放った。
「あの草、もしかしなくても大麻だよな!?」
そんな相手の剣幕もどこ吹く風。問われた男は悪びれもなくその通りだと答える。
「大丈夫、私は医者だから取り扱いについてはちゃんと認可が下りている」
「いや、そうじゃなくて。何かあったらどうするつもりだって言ってるんだ。小さい娘もいるってのに」
更にまくし立てる男の言葉を聞いていた初老の男は、なにやら一人納得した様子だった。
「前から言おうと思っていたのだけれど…優しいんだね」
「…っ、はぁ!?いっ…今はそんな話をしてるんじゃなくて、だなっ」
とたんにしどろもどろになる男を、初老の男は穏やに見つめた。
「あれは、繊維採取用に改良された品種だから、幻覚成分は皆無に等しいんだ。ほら、茎が長かっただろう?薬物用のものは背丈が低く横に広がって成長する」
そう種明かしをした後、驚かせてすまなかったねと詫びて、締めくくった。
「幻覚作用がない?馬鹿を言うな」
髭の男から吐き捨てられた言葉は、相手に言語とは認識されなかった。何故ならばそう言い放った男は、解説の中ほどから口元を押さえて、ものすごい勢いで踵を返していたからだ。
相手の急な態度の変化の元凶が自分だなどとは全く思い至らない初老の男が怪訝そうに見守る中、その男は逃げるようにその場を離れてゆく。

ひとり取り残された初老の男が、もしかしたら冗談が過ぎたのかもしれないと明後日の方向に反省をした頃、競歩よろしくの速度で足を動かしていた髭の男は、勢い良く空を仰いだ。
「でなきゃ…」と、ひとりごちて拳を振り上げる。
「あのど天然のおっさんがこんなに可愛い訳がない!」



お粗末さまでした。自分だけ楽しみすぎたと反省。ちなみに、ドクターに他意はありません。当然です。

 

 
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