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日々の萌えと燃えを吐き出す文字どおり世迷言ブログ
 

 

 
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時折ブログタイトルにボスとか出てきますが、某二次創作ゲームの覚書に入れているだけですので、唐突に何ぞと思われる場合は、スルーを推奨いたします。
ゲーム自体はそれなりに知名度もあると思いますが、攻略に全く参考にならないという意味では、ホントに無用のものでございます。

さて、追記から久しぶりに傷医者小話なぞ投下してみます。秋の夜長を過ごしあぐねた時にでもご笑覧下さいませ。
 

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睡眠時の独特の浮遊感から不意に現実へと引き戻される。
眠る前に付けたままだったらしい室内灯は、光度を落としたとはいえ、覚醒直後の目にはいささか強い刺激となって差し込んでくる。
咄嗟にくらんだ視界を緩和するため腕を翳そうとしたが叶わず、背後から回された逞しい腕が腹部の前で組まれているためだと認識するのに、数瞬を要した。
漸く就寝からここに至る経緯を思い出し、そして後背部から惜しみなく与えられる温もりをしみじみと噛み締める。

未だ世界は眠りに就いている頃合いなのだろう。人の立ち回る気配は全く感じられない。夜半前に降り出した雨は、どうやら上がったようで、今は雨垂れの音ひとつ届くことはない。
静寂に浸された中で、肩越しに届くかすかな呼吸音が、唯一世界と己とを繋いでいるように感じられた。
そっと首を巡らせると愛しい人の寝顔を、間近で見ることが出来る。
こんなにも明確に眠りに落ちる姿を、未だかつて目にしたことがなかった。
平時から神経を研ぎ澄ませている彼は、眠りの中に居る時でさえもかすかな物音で直ぐに覚醒してしまう。そんな姿を幾度となく目の当たりにして、果たして熟睡できているのだろうかと気を揉んだものだが、遅くまでの激務が相当身体に堪えたらしく、今はこうして腕の中で身じろいでも目を覚ます気配はなかった。
その状況に安堵して、またこんな機会は滅多にないという好奇心から、その姿を目に焼き付けておきたいという欲求を止めることが出来なくなってしまった。
息を詰めて、身体を反転しようと試みたが、圧迫感はないものの予想以上に拘束力を秘めた腕は、それを許してくれそうにない。
仕方がないのでそのままの姿勢で、出来る限り伸び上がってみる。
見上げる高さにあるその端正な相貌が、今は同じ目線の先にある。
普段は上げられた前髪が額の半分を覆っており、安らかな寝顔も手伝って、淡い明かりの下で、その姿は無邪気さを伴なって映しだされていた。
閉じられた瞼を縁取るまつ毛が意外に長いことや、通った鼻筋が彫りの深い顔だちを演出していること等、普段ではなかなか知ることのできない部分を確認し、いつもは真一文字に結ばれることの多い口元が軽く開かれ、そこから規則正しい呼吸が漏れていることに深く胸をなでおろした。
彫刻のように整ったと評すると、きっと彼は眉を寄せ訝しむ様な表情を浮かべるのだろうが、やはりこうして間近で目にするとその気持ちを新たにする。麗しさとは別の次元で、完成されたものなのだと。
そうして眠りに乗じた観察を終えると、今度はあの紅い瞳が開いていないことに一抹の物足りなさを覚えてしまい、我ながら勝手なものだと自嘲した。
もしかすると目を覚ましてしまうのかもしれない、そんな危惧を抱きつつも更に背筋を伸ばす。
半分隠れた形になっている、彼を表す代名詞となってしまった額の傷跡にそっと唇を落とした。
この傷が彼に与えた苦しみは、おそらく余人の想像をはるかに絶するものだったのだろう。多くは語らないからこそ、その痛みを否応なく思い知らされる。
どれほどの時間を経ても消えることのないその傷を、僅かばかりでも癒したいと願った。
こんな浅はかな行為でそれが軽減されることはないと知っていても、それでも何かせずにはいられなかったのだ。

押し当てたその部分は、皮膚のほかの部分よりも滑らかで、被膜が薄いせいか、僅かに熱をもったように感じられた。
もっと早く出会いたかったと、かなわぬ願いを無言の接吻に込めたまま静止した時は、どれほどであったのだろうか。
名残を惜しみながら緩慢な動作で離れるのと、閉ざされた瞼の下から深紅の瞳が覗くのはほぼ同時だった。
それは一度瞬いた後、寝起き特有の幾分掠れた声で「眠れないのか」と訊ねてくる。
そうではないと答えると、今度は此方の胴に巻き付けた腕に気付いたようで、苦しかっただろうと気遣わしげな視線を投げ、緩やかで確かなその拘束を解こうとする。
即座に首を振り、その手を止めた。こうしている方が安心するのだと伝えると、微かな安堵の吐息が首元をくすぐった。
その刹那、胸に込み上げてきた想いをどう表すれば良いかったのだろうか。
不意に湧き上がった泣きたくなるような充足は、幸福と呼ぶにはあまりにも複雑に要り組んだ感情を内包してはいたが、しかしそう定義出来るのであれば、これ程無上の瞬間は無いと確信できた。
おそらく傍から見れば他愛ない遣り取りに違いない。しかし、他でもない彼が、ここに留まることを赦してくれているようで、たったそれだけの行為がともすれば見失いがちなその足場を確かなものにしてくれる。
悔恨の念は今も深く自身の心を苛いんでいる。逃れることを望むことは決してないが、時折途方もない罪悪感に消え入りたい衝動に駆られる時があるのは事実だった。
そのたびに、意識をここに引きとどめられるのは、彼の存在があってこそだった。
その深い情愛に果たして自分はどこまで応えることが出来るのだろうか。

いささか余裕のできた腕の中、身体を反転させる。ようやく向かい合う形になって、待ち望んだ瞳を真っ直ぐに見上げた。
腕を相手の肩に伸ばし、巻き付ける。
言葉はない。しかし、それをを不足だとは微塵も思わなかった。
首元に顔を埋めると、再び腰に回された腕に力が篭ったのが触感として伝わり、心が歓喜に震える。
身を寄せ合う自分たちを取り巻く世界は未だ動き出す気配はない。明け方までは、まだ暫しの猶予があるのだろう。
高揚した気持ちを抱えた今、即座に寝付くことは困難ではあったが、すぐ傍で再び微睡み始めた大切なひとの姿を眺める幸福感が大部分を占めていた。
貴重な二人だけの時間はあと数時間もせずにあえなく終焉を迎えるだろう。しかし、それを惜しむ気持ちは霧散していた。
自らが動くことで変わる世界があることを彼は身をもって教えてくれていた。
己にできることは限られていて、しかしそれでも僅かながらも前に進める力となれるならば、きっと…。
その道が彼と共に歩めるものであればと願いながら、ゆっくりと目を閉じた。
次に覚醒する時は、目まぐるしい日常が迎えてくれることだろう。



ドクターが傷の人の額にちゅーというシチュエーションが書きたかっただけの小話でございました。ちなみに原作の後日談でも学園でもどちらともつかない感じにしてます。
色々と(特にだめな方面で)言いたいことは山積しておりますが、それはひとまず置いておきまして、ここまでお付き合いいただき有難うございました。


 

 
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