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日々の萌えと燃えを吐き出す文字どおり世迷言ブログ
 

 

 
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ということで、性懲りもなく紅蓮医者パラレルを上げてみます。友情出演に傷の人です。
前の小話とはまた違った世界かなぁと思いますが、繋げようと思ったら出来るような感じでもある…かもしれない。
あと、傷の人いるけれどあくまで紅蓮医者ベースで進んでいくので、ご注意願います。
 

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場所はどこかの病院。ドクターは文字通りお医者さんで、紅蓮:患者、傷の人:研修医です。どーぞ。


急患の処置を終え、ようやくひと心地ついて時計を見ると回診の時間が迫っていた。休息もこそこに立ち上がろうとするが、不意に肩に掛けられた大きな手に阻まれてしまった。
「回診ならば己れ一人でも出来る。先生はもう少し休んだほうがいい」
いつの間にか、近くにいた研修医の大柄な青年は、簡潔だが気遣いに満ちた言葉を掛けてくれた。
「気持ちは有難いけれど、主治医が外すわけにはいかないからね」
椅子に腰掛けたままの姿勢で見上げると、此方を見下ろしていた赤い瞳が一瞬眇められたが、軽い吐息とともに肩に掛けられた手が離れてゆく。
物言いたげな視線に「大丈夫だから」と答えると、差し出されたカルテを受け取り今度こそ腰を上げた。


殆どの担当患者の診察を終え、最後に訪れる病室はいつも決まっていた。部屋に近づくと、並んで歩く研修医の表情が心持ち険しくなる。
「今日は居るんだろうな、あの不良患者は」
うんざりといった形容がまさにぴったり当てはまるその言い様に思わず苦笑を漏らした。
病棟の一番端。広々とした個室が、「彼」に宛がわれた場所である。この病院に来て日の浅い研修医には、この部屋の暗に意味するところを知らない。そして、それを知らせようという気持ちは無かった。
ノックをすると、即座にどうぞと応答が返ってくる。
大きな窓のすぐ傍にしつらえられたベッド。そこに半身を起こし、なにやら熱心に外を眺める彼がいた。
背の中ほどまで伸びた総髪はきっちりと一つに纏められており、寝台の上に居なければ患者とは判断できないほどにいつも身嗜みは整っている。
その端正な相貌がゆっくりと振り向き、破顔した。
「ドクター、いつもご苦労様です」
「気分はどうかな」
「ええ、頗るというわけにはゆきませんが、まずまずですよ」
「……」
笑みを絶やすことなく淀みなく答える姿に、喉から出掛かった言葉を飲み込み小さく頷いた。
「調子がいいのは結構だが、勝手に病室から出歩くのは控えてもらいたいものだな」
憮然とした表情で傍らの青年が割って入る。その姿を一瞥した彼は僅かに目を見張り、そして意味ありげに口角を吊り上げる。
「ご心配なく。大事なドクターに累が及ぶようなことはいたしませんから」
「そういう事を言っているのではない!」
「ほう…違うのですか?」
凡そ院内でのやり取りとは思えない水掛け論の様相を呈し始めたところで、本来の目的を思い出し両者をとどめる。
「とりあえず、こちらを先に済ませようか」
そう声をかけると、方や慌てて器具の準備に取り掛かり、方や宙を仰いで軽く肩をすくめる。
そうして、恙なく一通りの検査を終え、問診のみとなったところで、不意に病室のドアが乾いた音を立てた。
「先生、こちらにいらっしゃいましたか。先ほどの急患の件でどうしても先生の手をお借りしたくて…」
若い看護師が扉の隙間から上半身を出して、早口で告げる。余程慌てているのかまだ息も整っていない様子だ。
「分かった。直ぐに行こう」
傍らの青年を促し足早に部屋を後にする。
「すまないが、問診はまた後で」
戸口で振り返り、彼に告げる。
「ええ、構いません。いつでもどうぞ」
答えるその顔は終始変わることの無い笑みが浮かんでいた。


窓から差し込む光が残照に変わる頃、再びかの病室を訪れていた。今度は誰も伴うことなく単身である。
検査結果に目を通しながら、不自然に抑揚が篭らないようにと意識して言葉を紡ぐ。
「…鎮痛剤の投与を増やしたほうがいいんじゃないかな」
「いえ、これで充分です」
カルテに記された情報は思わしくないものだった。
そこから導き出せる未来を厭というほどに思い知らされた身には、それ以上の思考を追うことは出来そうにない。思わず眉を寄せたのを見止めたのであろう。彼はさらに続けて言う。
「意識を失ってまで、ここに縛られるのは御免なのです。それならば、多少なりとも痛みを伴う方が現実味があるというものですよ」
その言葉のとおり薬剤の多量投与は、意識レベルを大きく低下させるものだった。しかし、それが精神的苦痛のみならず相手の消耗を助長するのならば、医師として看過できるものではない。
「しかし…これでは」
「私には、充分だと言ったでしょう?あなたがここに来てくださることが何よりもの薬なのですから」
相変わらず笑みを湛えたまま、しかし相貌には隠すことの出来ない憔悴の色が浮かんでいる。無理もない、彼の体を蝕んでいる病魔は昼夜問わず発作的な激痛を与えているに違いないのだから。それでも、彼はそんな苦しみを億尾にも出さずに接するのだ。
己の無力さが胸に突き刺さる思いだった。
「すまない…私の力が及ばないばかりに」
俯き握り締めた拳は、次の瞬間撫でるようにやわらかく捕らえられた。
「あなたが責任を感じる必要は何一つありませんよ」
低く涼やかな声が耳殻を掠める。愛しむかのように手の甲を通り過ぎた感触は、指の付け根を軽く引っかき離れてゆく。その刺激に身体の奥底から微かな細波がわき起こった。
「ご覧下さい。桜が見ごろを迎えていますよ」
ここで春を迎えられるのは僥倖だと彼は告げる。
名残を断ち切るように目線を上へ向けると、示された指先の行方を追う。それは院内の中庭ではなく、もっと先の…赤く染まった空に侵食されそうな淡い木々の薄紅だった。
「ねがわくば…」
不意に小さな呟きが降りてくる。聞き逃すまいと視線を声の主に向けるが、彼の目は指し示した夕日の果てを捕らえたままで、その先が口に出されることは無かった。
空の赤はその境界を藍色に譲り、じりじりと後退を余儀なくされてゆく。
「…そういえば、先ほど微睡んでいた折に夢を見ていましてね」
夢での出来事をを口にしながらも、真っ直ぐに向けられた目には真摯な光が宿っている。
「どこか異国のようなところで、私は不思議な力を操っていました。そして、あなたはそこでも医者として瀕死の男性を救っていましたよ」
「そう…かい」
「出来ることならば、今度はこんな風にあなたを泣かせることの無いように…そう、願っています」
伸び上がった彼に歪み始めた視界を塞がれる。目じりに当てられた唇は乾いて熱を持っており、そして暗い虚無の気配を纏っていた。


すっかり闇に沈んだ廊下を月明かりを頼りに一人歩く。職員用と定められた通路は、自発的に点灯しなければ明かりも覚束ないが、しかしそのことを意識を向けることは無かった。
先ほどから思考を支配しているのは、如何にして彼を存えさせるかという、その一点のみだった。
これは医師としての矜持ではなく、ましてや功名心などではない。ただ彼に少しでも長く傍にいて欲しいと願う我執だ。それは当人の意思すらも逸脱し、薄暗い妄念となって自らの心を蝕んでいた。
喪失感が胸から痛みを伴ってせり上がり胃部を圧迫する。思わず片手で口を覆い、その場に蹲った。眼前に迫るリノリウムは数多くの慟哭を吸い込んで、それでも褪せることなく伸びている。この先は何だっただろうか?歩きなれたはずの院内で、一瞬記憶が遠のいた。
「先生!」
視界に見慣れた上履きが入ってきたかと思うと、切羽詰った声が忘我の境から意識を浮上させる。と同時に強い力で抱え上げられていた。
「だから休息が必要だと、あれ程…っ」
厳しい語調に、此方の身を案じる気持ちが滲んでいるのが分かり、不覚にも胸に温かいものが広がってゆく。一瞬そのぬくもりに気を取られている間に、抵抗の機会を失してしまい、そのまま有無を言わせず抱きかかえられて仮眠室へ運び込まれてしまった。
起こしに行くまで、くれぐれも抜け出さないようにと、強い調子で釘を刺され、敷かれた布団の上に押さえつけられる。
「いや、しかしまだ…」
やり残した報告書類が記憶する限りでもいくつかあったはずだ。
「あなたに倒れられたら、患者はどうなる!?他者の命を預かるのなら、自分の身体も顧みるべきではないのか」
「…!」
不意に浮かんだのは、病室を去り際に掛けられた彼の言葉だった。

「隣にいた青年は、あなたの部下ですか?」
背中越しに掛けられた声に、ノブに手を掛けた姿勢で首だけを振り向けた。
「いや…今は研修期間だから、正式な配属先は決まっていないのだが」
どうかしたかと問うと、いいえという答えが返ってくる。
「彼はきっとあなたの良き理解者になりますよ。どうぞ大事になさってください」
未だ戸口にとどまる身を送り出す手向けのように晴れ晴れとした響きを含んだ声だった。それに背を押されるように病室を後にした。その時は未練を探ろうとした己の無念さを思いしらされるような気持ちだったのだが…。

改めて振り返ると、この青年がすぐ傍でいつも支えていてくれたことを思い出す。
「ありがとう。お言葉に甘えて少し休むことにするよ」
深く沈んだ気持ちが幾分和らいだ気がした。ふわりと掛けられた毛布を握り締める。今ならば眠りの世界に身を委ねることができるのかもしれない、そう思った。


…何時しか夢を見ていたようだった。幾度もこだまする轟音をゆめうつつに聞いていたと記憶していたが、それが何であったのか判断することはできなかった。
闇に沈んだ室内からは時を知るすべはなく、ただ轟々という風の音だけが響いていた。
春嵐だろうか、桜は散ってしまわないだろうかと、半覚醒状態のままぼんやりと考えをめぐらせながら、緩慢な動作で身を起こす。
明かりを点けようとよろめきながら立ち上がりかけた時、部屋の扉が勢いよく開いた。飛び込んできたのは、先ほど寝かしつけてくれた研修医の青年だった。
「さっきはありがとう。おかげで…」
礼を言いかけたところにかぶさるように、相手の呼びかけが重なった。
「…先生」
声音が酷く苦渋に満ちている。ぞくりと背筋に這い上がるのは悪い予感などという不確かなものではなく、想定していた遠くない未来だ。
「まさか彼、が…」
搾り出すように、それだけを口にするのがやっとだった。
「何処にも姿が見当たらない」
途切れた語尾を拾って、青年が続ける。そして、居場所に心当たりはないかと尋ねてきた。
未だ風は衰える気配もなく吹きすさび、振動音としてその勢いを耳に伝えてくる。夕刻の穏やかだった日暮れからは想像もつかない荒天となり、必死の思いで記憶を辿るわが身を阻むかのように、前兆なき嵐が思考を覆い隠した。混乱と逃避で霞がかる意識の中で、不意に一点の光明のように唯一目に焼きついた光景が閃く。闇色と燃えるような赤とそして、それらに次々と侵食されながら淡く咲き誇るそれは…。
「願わくば 花の下にて 春死なん」
「何?」
口をついて出た言葉は、青年の予想もしないものだったのだろう。訝しげな視線を注いでくる。
なぜ彼が今日食い入るように窓の外を見ていたのか、なぜ夢の光景に願いを託したのか、なぜ去り際に別の人間の話をしたのか。
彼はずっと己の終焉を見定め、静かにその時を計っていたのだ。
「ある歌人の句だ。今日彼が口にしていたのはそれだったんだ…」
その歌に擬えるならば、きっとあの桜の木の下に…そう、眠りについているのだろう。
「心当たりがあるならば、すぐに車を出そう!」
即座に身を翻すその背を眺めながら、こみ上げるものを必死の思いで堪えていた。予想というにはあまりにも確実すぎる推論を抱えて、それでもくず折れることができなかったのは、彼のもうひとつの願いがあったからだ。安息と定めた終焉を見送ることが出来ないのならば、せめてもうひとつの願いだけは叶えないわけにはゆかないと…その一念が身体を突き動かしていた。
廊下に出ると、千切れた雲の間から満月が姿を晒している。淡い光の中、急ぎ足で歩を進めながらあの桜の、そして彼の人の運命を祈り続けていた。




タイトルからして既にネタバレだったわけですが…落ちがガラス張りだった方すみません、捻りがなくて。
元々設定としては3年ぐらい前からあったネタなんですが、先日目にしたイメージソングで繋がった気がしたので書いてみました。見事にがっかりな結果ですが。
確か、当時は新聞勧誘員紅蓮とどっちにしようか迷って前者にしたとかいう誰得情報を垂れ流しつつ。補足というか蛇足というか、ここの傷の人は心意気だけは殲滅戦前仕様のつもりです。なので多少熱血漢ということにしておいてやってください。


 

 
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