管理画面
日々の萌えと燃えを吐き出す文字どおり世迷言ブログ
 

 

 
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
 

 

 

 

 
とりあえず、急に傷医者が書きたくなったので書きかけのネタ放置して、即興で書いてしまいました。
いつもにも増して展開が行方不明ですが、お心の広い方は追記からどうぞ。
 

more




この季節特有の長雨は、男の焦りを助長するに十分すぎるほどの停滞を生んでいた。

立派な体躯を持つ男が椅子に背を曲げて腰掛けたまま、何をするでもなくじっと窓の外を眺めている。時折吐き出される苛立ちのこもったため息に、部屋の空気も幾分沈んだように感じられる。しかし、彼の焦りが痛いほどに分かるだけに、ただ黙してその広い背中を眺めるに留まっていた。
大粒の水滴は窓に叩きつけられ、ばらばらと派手な音を立てて流れゆく。空を覆う厚い雲は、これからどれだけの降雨をこの地にもたらすのか、想像もつかなかった。
その激しさは、人の往来にも大きな影響を与える。普段ならば息つく間もないほどに訪れる患者たちが、今日はひどく疎らだった。この雨のせいで身体の不調を来たしても、助けを求めることの出来ない患者が居るのではないか。そんな不安が心の中に浮かび上がったが、逸る心をすんでのところで押さえ込む。ここを訪れる人がいる、その可能性が僅かでもあるならば、やはり自分が離れる訳にはいかないのだと。
吐息は伝染するとでもいうのだろうか、無意識に大きく息を吐き出している自分に気づき苦笑する。そして、澱んだ空気を振り払うように踵を返すとキッチンへと向かった。

まずは、薬缶を火にかける。そのあい間に取り出した鮮やかな緑の葉は、試しに栽培してみるとその繁殖力の強さから予想以上の収穫となったハーブの一種である。使い道に窮していたところに、ふとお茶にすることを思いついたのだ。煮出すよりは、素材の色をできるだけ生かしたいと考え、生の葉を湯に浸すことにする。消炎効果から薬剤としての利用もされるが、その種特有の爽快な香りは、気分転換にもってこいであると思われた。
また、茂れる若葉を思わせる鮮やかなグリーンは、この重苦しい空気を幾分軽減させてくれるのではないかとも期待して。
ざっと水洗いをした葉をティーポットに詰め込み、そこに沸騰した湯を注ぎ込む。
蒸らすこと3分ほどでティーカップに注がれた液体は、淡い新緑色で目の覚めるような爽快な香りを放っている。そこに新鮮な生の葉を一枚と角砂糖をひとつ落とすと、未だ窓に視線を張り付けている男の元へと戻った。
「気分転換にお茶でもどうかな?」
カップを差し出すと、まるで現世に引き戻されたような、面食らった表情で此方を見上げる紅い瞳。
その思いがけず垣間見ることのできたあどけない表情に、思わず頬が緩む。もう一度、促すようにカップを彼の方へ寄せると「すまない」という一言と共にその重みは、彼へと移っていった。
一口含むと、まじまじとカップの中を覗き込んでいる。
薄緑色の、独特の鼻腔をすり抜けるような強い香をまとった液体は、未だかつて彼が経験したものの中にはなかったらしい。怪訝そうに首ひねっている。
「何というものだ、これは」
「ああ、ハーブのエキスをお湯で抽出してみたんだ。さしずめミントティーといったところかな」
そう答えると、合点がいったらしく、大きくひとつ頷いた。
「薄荷湯か。成程、この香りはそのせいなのだな」
そう言いながら、何度もカップを口に彼の運ぶ姿に安堵する。
「気分転換に丁度いいかなと思って作ってみたんだが、口にあったみたいで良かったよ」
気を遣わせしまったようだな…と、大きな手でカップを包み込み目線を落とす彼に、自分もそうしたかったからだと告げ、微笑してみせた。
雨で作業の進捗が遅れたり、ぬかるみで土台が不安定になったりと彼の心配の種は尽きないのだろうけれども。
「雨降って地固まる。そういう諺もあるからね」
きっと大丈夫だと。それは気休めではなく、本心からの言葉だった。他でもない彼が携わっているのだ。どんな困難であっても、きっと二度とその道を見失うことはないと信じている。

「お前は…」
期せずして投げかけられた言葉に驚いて目を上げると、こちらに注がれる真っ直ぐな視線があった。
どうなのだと問いかけられる。
「どう…とは?」
「先ほど気分転換と言った。何か胸に閊えていることがあるのだろう」
図星ではあった。しかし…それを口にすることは憚られた。躊躇していると大きな手が先を促すように肩に添えられた。
「お前が己れを案じてくれている様に、己れもお前の力になりたいと思っている」
だから遠慮などするなと。真摯な何処までも澄んだ紅がひたと此方に据えられている。彼の気持ちに対して誤魔化しなど、赦されないのだと悟った。
「実は…」
そして、足が悪く、また今日で薬の切れてしまう患者がいること、雨とはいえここを訪れる可能性のある患者もいることを告げる。
雨音は未だ激しく、止む気配は一切ない。しかし彼は言うのだ、ならば自分が行って薬を届けようと。そのにはなんの淀みも躊躇いもない。ただ、純粋に此方の事情を慮ってのことなのである。
彼がいてくれて良かったと心の底から思う。それは、使いを託すことができるからという、そんな単純な理由からでは決してない。一人ならばどうすることもできなかった事象を、彼と共に乗り越えられることがこの上なく幸せなのだと。
自らの入れたハーブティーを口に運びつつ、そう思い至った。喉奥を潤す清涼は、やがて胃の腑へと至り、じんわりと身体を内側から温めてくれる。
「ありがとう」
万感の思いを込めた感謝の言葉は彼に届いただろうか?
願わくば、この身が彼を救いうる存在であらんことを。






なんか、どう贔屓目に見積もっても傷と医者でしかないですが、心意気だけは目一杯傷医者です。
相変わらず背景世界が曖昧ですが、原作終了後でもパラレルでもお好きにご想像くださいませ…。お粗末さまでした。


 

 
Copyright © 2017 よまいごと, all rights reserved.
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。